● 伝説のフリーペーパー「Authentico」編集長 渡邉正の世界 Vol.2 * ダンスはうまく踊れない〜CKB Flying Saucer 2013 京都レポート


 

“ダンスはうまく踊れない”

 

Come on everybody, clap your hands,

Oh, you're looking good

I'm gonna sing my song,it won't take long

We're gonna do the Dance and it goes like this

 

ブラックミュージックとダンスは切り離しては考えられない。

シェイク ツイスト マッシュポテト ブガルー シーシー etc.etc…。

ブラックミュージック好きならば誰しもカッコ良くソウルダンスをキメたいと思うはず。

僕自身もそう思うわけだがどうにもダンスはうまく踊れない。

残念ながらズンドコ踊りになってしまう。

黒人ダンサー独特のしなやかでキレのあるダンスは天性のものななのか。

 

英国のユースカルチャーであるノーザンソウルシーンでは

60年代のヒューマンなソウルミュージックに合わせてスピンし開脚する。

ハイハットの刻みに合わせるように高速でアクロバティックなダンススタイルとなる。

黒人の腰を中心に渦を巻くそれとは異なるのは白人のダンススタイルだからかも知れない。

ともかくそんなことよりも、身体で感じるブラックミュージックは楽しいし、

たとえ踊れなくてもリズムに合わせて身体を揺らすだけ気持ちの良いものである。

 

 

“靴が鳴る”

 

Well it,s one for the money

Two for the show

Three to get ready now go cat go

But don't you step on my doctor shoes

Well you can do anything

But stay off my doctor shoes

 

そう、ダンスはうまく踊れなくても気持ち良く踊ることはできる。

少し前に大阪東心斎橋で行われたファンクのイベントに行った時のこと。

同行したスタッフの花田は会場に入る前に、

底の薄いヒールがぺったんこのバレエシューズに履き替えた。

フロアで花田はミズスマシのように軽やかに足を滑らしながらステップを踏む。

その隣で僕はズンドコ踊り。

花田曰く「酔っ払いながらこれ履いて踊ると気持ち良い」

なるほどである。

オドルトキモチイイ

ハードコアなダンサーでなくても少しだけ靴に気を使うべきなのである。

ノーザンソウル周辺のイベントではバレエシューズに履き替えている人が結構多い。

バレエシューズはゲンズブールやバルドーが履いていたレペットが有名だが他にも色々あるようだ。

そこのところはこちらを見てほしい。

 

 

うまく踊れる踊れないは天性のものかもしれないが

気持ち良く踊るのは心の持ちようと工夫次第。

ゴム底は滑らなくて踊りにくいし、

第一スニーカーではテンションが上がらない。

固めの革底の靴が好ましいが、

あまり高価な靴はダンスフロアーで気が引ける。

ハードでアクロバティックなダンスをするのでなければ

僕はハルタのドクターシューズをお勧めする。

スリッパに踵がくっついたようなデザインで、

主にお医者さんや僧侶が履くもの(笑)だそうで、

独特の形状が脱ぎ履きしやすく、往診や檀家周りに最適との事。

院長とか金文字を入れるサービスもあり、

誰かJBとか入れる猛者はいないだろうか。

東京タワーの基礎工事が着工された昭和30年に発売され、

今だに作り続けられている超ロングセラーだ。

この靴、ファッション業界で特に注目を浴びるでもないが、

これがどうして、なかなかカッコ良い。

丸過ぎずトンガリ過ぎずの奇跡のシェイプと

バックリと割れたV字開口は相当モダンで、

GUCCIあたりがパクっても不思議でないと僕は思っている。

薄く固めのソールが適度に滑ってくれるので、

ダンスには持ってこいだし、第一安い。

ダンスシューズに特化するなら底にスウェードを貼れば尚良い。

ちょうちん袖のシャツにソウルパンツのソウルトレインスタイルにも、

コンポラスーツやチキンスラックスのジェイムズ・ブラウンスタイルにも似合うし、

不良アイヴィーのマストであるコブラヴァンプ以上に黒人度は増す。

 

白のリブソックスやラインのチューブソックスを合わせばヤバめのヒスパニック気分も上々となる。

チャコットバレエシューズ
チャコットバレエシューズ
ハルタドクターシューズ
ハルタドクターシューズ
リーガル・コブラヴァンプ
リーガル・コブラヴァンプ
レペットJAZZ
レペットJAZZ

 

“だからあなたは京都にゆくの”

CRAZY KEN BAND TOUR “Flying Saucer 2013” 

 

最新にして最高のブランニューアルバム『フライングソーサー』を引っ提げ東洋一のサウンドマシーン“クレイジーケンバンド”が京都劇場にやってきた。

ここのところクレイジーケンバンド ライブ観戦のメンツは固定化していて、

チーム“ハゲとナデ肩”+目ヂカラのあるナオンは、

京都プチ観光も兼ねて昼前に京都駅に集まった。

京都プチ観光のテーマはズバリ“007は2度死ぬ”。

間違った東洋感とボンドカー トヨタ2000GTの流線型のシェイプを追い求め、

いにしえの京都をほっつき歩こうという趣向である。

由緒ある神社仏閣では謎の東洋人テイストのスナップ写真を多く撮ったが、ここでは割愛する。

 

とりあえずメシということで我々が向かった先は喫茶マドラグ。

お目当ては巨大な玉子サンド。

関西の玉子サンドはゆで卵でなく玉子焼きが定説だか、

今ではそんな玉子サンドもめっきり少なくなり絶滅危惧メニューとなっている。

で、ここは玉子焼きの玉子サンドが食べれる店として有名だが、その辺の喫茶店のサンドイッチを想像していると、あまりの巨大さに面食らうだろう。

巨大ではあるが、上品でチャーミングな味とフワフワの玉子焼きとフカフカの食パンが、

幸せな気持ちにさせてくれる。

2皿頼んで3人でシェア。

しかし4切れ×2で8切れは3人で割り切れない…。

ここは若手のナデ肩が身を引き、

ハゲと目ヂカラのあるナオンが3切れづつナデ肩が2切れを食べた。

凄いボリュ〜ム!お腹いっぱ〜い!もう充分過ぎ〜!と、はしゃぐハゲと目ヂカラのあるナオン。

店の佇まいも素晴らしく、昭和モダンなスタイルと絶品の喫茶メニューはいつまでも存続して頂きたいと切に願う。

その後、祇園の八坂さんを参拝し、

木屋町恵比須444と言うナイスな所在地にあるなじみの服屋をひやかす。

古い料理屋の店構えをそのまま使った店内には、

売れ筋から遠く離れたオッサン臭い服が並び、たまらなくカッチョ良い。

ハゲは、この店の服がいかに素晴らしいかを店員相手に熱く語り、

そして何も買わずに店を出る…南無〜。

 

なじみの服屋からすぐ側の、高瀬川のほとりにあるキルフェボンというケーキ屋さんで

イチジクやら柿のケーキを頬張るが、

お上品な奥様方ばかりの店内で明らかにハゲとナデ肩は浮いていた。

木屋町からタクシーを飛ばし、東山の東福寺を拝観する。

ストイックでシャープな市松模様の意匠の庭園に一同息を飲む。

クラシックも古典も突き詰めるとモダンと同意となることを実感。

 

プチ京都観光を満喫した頃、日も暮れ始め、

待ちに待ったクレイジーケンバンドのショーの開幕が近づいてきた。

 

京都駅に戻りたかばしの古典的ラーメン屋で早めの夕飯を取る。

それにしてもなんだろう、この京都の普通のラーメンは絶品だ。

昨今のやたら能書きだらけで

「心を込めて支度中」などの札が開店前にぶら下がるラーメン屋には辟易するのだか、

いたって普通にずっと同じことを続ける普通のラーメン屋は今では逆に普通で無くなりつつある。

ここのラーメン屋のトイレは地下にあり、

やたら狭い階段を降りてトイレにたどり着く頃には靴底はラードでヌルヌルになる。

ノーザンソウルシーンでは、滑りを良くするためにテンカフンを靴底にまぶすのだが、

我々は靴底にラードを塗りクレイジーケンバンドでズンドコ踊る。

 

言い忘れていたが我々の足元は、バンドの強力無比のグルーヴを受け止めるためのとっておきのダンス仕様となっている。

目ヂカラのあるナオンはレペットJAZZ!ナデ肩は定番コブラヴァンプ、そしてハゲのドクターシューズ。

 

お腹も膨れたところで、そろそろ開場の時間となった。

 

緞帳が開き、ラテン歌謡なロックナンバーフライングソーサーでショーはスタート。

クレイジーケンの登場ですでに会場は沸点に達する。

この始まりが好き。

 

〜以下、会場を物凄い音楽の渦が包む怒涛の3時間…。

嬉しかったのは今回のツアーで京都劇場限定の楽曲「京都野郎」。

人力+打ち込みでボトムを強化し、

都々逸〜小唄とジェームス・ボンドを落とし込んだご当地ソングの難しいニュアンスを実に上手く実演していた。

今や世界一の安定感と言えるヘビー級のJBメドレーはレディマスタングから繋がれる。

かなり繊細なことを各々が行い、

それが積み重なることで豪快に雪崩のように転がり進むダンス極楽。

ベストトラックはシフトチェンジか。

クレイジーケンバンド史上最もカッコ良いベースラインをCD以上のクオリティで堪能出来た。

これまでのライブからすると、かなり大人っぽく艶のある曲構成で、

破綻と無縁の余裕シャクシャクの演奏陣が印象的。

ライブハウスではスリルを、ホールでは芸能度を高くする隙の無さは叩き上げのバンドならではだろう。

クレイジーケンの歌唱やトークはこれまで以上に古典芸能度が増して冴え渡る。

今クレイジーケンは、最盛期のトムジョーンズやフリオイグリシアスかセルジオメンデス辺りと同じ地平に立っていると思う。

ショーのフィナーレはクレイジーケンバンド史上最も大仰な楽曲「男の滑走路」〜「地球が一回転する間に」。

 

澄み切った青空に掛かる見事な虹のアーチを大型ジェットが悠々とくぐり抜け、

色とりどりの無数の風船が天を埋め尽くし妖精が舞い踊る、めくるめく音楽の万華鏡。

 

エンディングSE「よくあることさ」トムジョーンズが流れメンバーがひとりずつ捌けて客電が灯りショーは終わりとなる。

 

まるで宝塚ファミリーランドの「世界はひとつ」のようなフィナーレに、

クレイジーケンバンドの新境地を見た想いがする。

三者三様、とっておきのダンス仕様の足元で固め、

お気に入りの音楽に身を委ねる秋の京都の一日がこれで終わる。

本当なら〆にちょっと一杯行きたいところだが、電車の時間を気にしつつ、各々の家路に就いた。

 

恐々謹言

 

昨年、某メールマガジンに掲載の「クレイジーケンバンド秋のツアーライブのスチャラカレポ」を一部修正して掲載しました。